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「国内投資家初のポジティブ・インパクト不動産投資」第一生命保険㈱が帯広で行う地域活性化

今回は第一生命保険(株)の藤崎裕子さんにお話を伺いました。

第一生命さんでは「機関投資家では日本初となるポジティブ・インパクト不動産投資(※)」を帯広市で行っており、ホテルNUPKA Hanare Loungeヌプカハナレラウンジという無料開放のコワーキングスペースが実現しました。NUPKA Hanare Loungeは第一生命保険㈱・十勝シティデザイン㈱・帯広市の3者で結んだワーケーションの連携協定施設です。

なぜ帯広でESG不動産投資を行おうとしたのか、実現するまでの苦労話などを語っていただきました。最後まで読んでいただけると幸いです。

(※)ポジティブ・インパクト投資…ESG投資(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を考慮する投資手法)のひとつで、SDGsの実現に向け、投資活動によって生じる環境・社会・経済へのインパクトを特定し、インパクト創出状況の評価分析・計測管理を通じて、ポジティブ・インパクトの増大とネガティブ・インパクトの低減を目指す金融手法。


藤崎 裕子(ふじさき ゆうこ)
2008年に第一生命保険㈱へ入社。2018年に同社不動産部に配属。不動産を活用した地方創生取組の検討チームで帯広を担当する。


生まれ変わった帯広支社ビル

———帯広のまちなかで第一生命さんの物件を活用したNUPKA Hanare Loungeが宿泊施設として今大変利用されています。どうして帯広でESG不動産投資をしようと思われたんでしょうか。

当社の営業物件は全国各地にありまして、築古のものは、営繕工事をして引き続き支社が使うこともあれば、建て替えて収益物件にするとか、リニューアルしてそのまま使うということをしています。
そういった選択肢があるなか、2018年頃から築古の物件を社会貢献できる使い方がないかという検討を若手社員中心で検討し始めました。

検討候補に挙げられた複数の物件について、それぞれ若手社員が担当となり、まず地域の行政・自治体等にヒアリングして地域課題やニーズをお聞きしました。また、当社は不動産を保有しますが、運営をするわけではないので、ビジネスパートナーの探索が必須になります。なのでネット等で調べて地域活性化の取組をされている企業さんや団体さんにお電話し、直接ヒアリングをしました。

その活動の中で十勝シティデザインさんと出会いビジネスパートナーとなったことが、帯広でプロジェクトを進めようという強い後押しになりました。古い旅館をフルリノベーションして、それを「まちやど」(※1)という考え方で運営し、ホテルだけではなく、ばん馬(※2)を使った馬車Barの取組までされていることを知って面白いなと。

地方創生は厳しいところもある中で、帯広には色々なコンテンツとそれをビジネスにする事業者さんがいて、注目しましたね。

(※1)まちやど…まちを泊まる場所(ホテル)、食べる場所(周辺の飲食店)、お風呂に入る場所(周辺の温泉施設)などのように様々な要素に分解し、まち全体をひとつの宿と見立てる概念。宿泊施設と地域の日常をネットワークさせ、まちぐるみで宿泊客をもてなすことで地域価値を向上していく事業。
(※2)ばん馬…開拓当時、車両やそりを引かせ土地を耕す農耕馬として、十勝地域の発展へ大きな貢献をしてきた。


改修前の写真(上2つ)と改修後の写真(下2つ)

———コロナの影響で帯広市での計画がしばらく止まったと伺いましたが、その後どうやって計画を進めたのでしょうか?

当初、帯広市さん、十勝シティデザインさんとは、「帯広であまり取り込めていないインバウンド需要に対応できる施設」というコンセプトで話が進んでいました。それがコロナになってインバウンドが激減し、プロジェクトは一旦白紙となってしまったのですが、社内で「そうは言ってもなにか動けないの?」となりまして。担当者としてはコロナという予想外の事態とはいえ、ここからコンセプトベースで考え直すのは正直難しいかなと悩ましかったんですけれど…。

そこで十勝シティデザインさんと帯広市さんと改めて打ち合わせの場を設けさせていただきました。その時に帯広市さんからwithコロナ、ポストコロナにおける新しい考え方として、「ワーケーション」「関係人口」の創出・拡大というコンセプトをいただいて、社内で共有したんです。
当時は世間的にも新しい考え方だったので、社内では「ワーケーション?」「関係人口?」という感じでしたね。考え方の転換をしなければならなかったのがすごく大変でした。

——どのように社内的な理解を得たのでしょうか。

一つは帯広市さんからニーズとしてあった関係人口の創出ができると、社会貢献に繋がり、ひいては当社のブランド価値向上にもなるところ。もう一つは生命保険という業態柄、地域に根差した営業活動をしておりますので、各地域の課題やニーズを把握し、地域のお客様との繋がりを強化することで、当社の営業基盤にもなるところ。この2点について、社内に説明に回りました。

その結果、2018年より進めていた協議・検討が、2020年に帯広市におけるワーケーション等の推進に基づく関係人口創出・拡大に向けた連携協定の締結に結び付き、2021年に開業するに至りました。

開業セレモニーの様子

なぜESG不動産投資を行うようになったのか

———保険会社として不動産投資はかねてからされていたと思いますが、ESG不動産投資を扱うに至った経緯を教えてください。

社会全体のESG投資への流れは受けています。2015年の国連サミットで持続化目標のSDGsが採択され、そこから企業や金融機関などに、社会課題の貢献への期待がかなり高まりました。

こうした中で当社は、ESG要素を運用プロセスに組み込むことを提唱する国連責任原則(PRI)に署名し、同原則に基づいたESG投資の取組みを推進することにより、中長期的なリターンの獲得と社会課題の解決の両立を目指してきました。

そういった経緯から不動産でも出来ることはないかを探すこととなりました。当社が全国に保有している多数の物件を活用して、他地域では保育所やヘルスケア施設の誘致、東京では保育所へのグラウンド開放など地域住民のQOL向上に繋がる取組をしています。

———ESG不動産投資をするとなったときの印象、苦労したお話などのエピソードはありますか。

最初に申し上げた通り、築古物件の社会貢献に繋がる活用検討は2018年くらいから開始しました。当社としても前例がないですし、あまりほかの企業さんでもそういった前例がない中だったので、みんな「どうやろう」「どうしよう」という状態でしたね。

帯広の物件含め数物件を検討したんですけれど、地域課題の解決、経済条件、ビジネスパートナー、これをすべて成立させるという案件がほぼなくて、事業化するのにかなりハードルが高かったです。帯広市さんに関してもビジネスパートナーの探索にかなり時間がかかりましたし、事業化に向けた経済条件の調整というところにも苦労しました。
2018年がちょうど私が不動産部に異動したタイミングで勉強の日々でしたので、入社して一番大変なプロジェクトだったなと思っています。

———どういったところにやりがいを感じられますか。

通常の投資にはない社会貢献に繋がる点です。
ESG投資は収益性だけでなく、そこに+αの付加価値が求められます。正直収益性だけを求めるほうが簡単ですが、現状の社会の動き、気候変動や人口減少などの社会課題、そういったところの動きを把握したうえで不動産投資を行っていかなければならない。そういうところが難しさでもありますが、どういった付加価値をつけられるかというところにやりがいを感じています。

あと、不動産投資って株や債券の投資と違って目で見えるんですよね。自分のやった案件の建物が建って、そこに人の流れができてまちづくりに繋がって賑わいができたりとか、目で見えるのは面白いところだなと思っています。

SETAGAYA Qs-GARDEN(世田谷キューズガーデン)全体像イメージ
低利用となっていた福利厚生施設の「第一生命グラウンド」(東京都世田谷区給田)の有効活用プロジェクトとして、豊かな緑に囲まれた約9hの敷地に、一般向け住宅・学生マンション・高齢者向け住宅等を新たに設置するとともに、既存施設を生かしてスポーツ施設や公園、地域コミュニティ施設等を整備し、多世代の住民が豊かに交流しながら健康的に暮らし続けられるまちづくりを進めている。

社会に対応し続ける機関投資家として

———機関投資家にお勤めになっていて、その位置付け等について、どのように捉えられていますか。

機関投資家には当社のような保険会社、ほかには年金基金、政府系金融機関などが挙げられますが、個人投資家と比べて扱う額が巨額になりますので、投資のインパクトが大きく、当社の投資がそのまま市場や経済に大きく影響を与えます。

例えば、当社が環境に配慮した投資を先行することで、ほかの投資家の皆さんに環境へ配慮した投資が促進され、日本における環境投資がより一層促進すると思っています。

当社には、「社会の動きに対して速やかに対応する」、「ほかの企業でやっていないことを率先して行う」という特徴があると私は思っていて、社会に対して影響、インパクトが与えられる点はとても面白いのですが、やるにあたっては色々な検証と準備が必要で、プレッシャーを感じることもありますね。

———投資をグローバルに展開している中、なぜ地方にも目を向けているのでしょうか。

生命保険事業は保険契約者様からお預かりするお金で運用していますので、保険事業の根幹はひとりひとりの地域にいるお客様から成り立っています。

持続的な社会が実現しないと成り立たない業種ですので、運用にあたっては、「海外に投資した方が収益性が上がるから海外でだけ」というものでもないと考えます。日本も海外もですが、地域のお客様、株主、そういったあらゆるステークホルダーの方に配慮した投資で、各地域の社会課題それぞれに向き合うことが今後も必要なのかなと。

最後に

———協定施設がどう育ってほしいかをお聞かせください。

コロナが落ち着いて来ましたが、ワーケーション、関係人口をきっかけとした地域活性化の流れは引き続きあると思っています。せっかく快適にテレワークができる施設を造ったので、ワーケーション利用客が増えて、帯広市に来る方の人の流れを生み出す拠点のひとつになってもらえれば、当社の意図したところになるのかなと。

あとは、旅行で来た方がそこでお仕事されている方を見て、「ワーケーションやってみようかな」とか、逆に仕事で来られた方が「ちょっと仕事後にここに行ってみようかな」とか、旅と仕事を繋げるきっかけになる施設として皆様に認識いただけるようになると当社としても投資した意味合いがあると思っています。

今回こういった形で地域が抱える課題解決にともに向き合えたのは本当にありがたいですし、今後もと思っておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

インタビューを終えて

藤崎さん、お忙しい中noteの取材にご協力いただきありがとうございました!

人口減少が進む地方都市。今後は、ますます域外との接点の視点が重要になると思います。
ワーケーション、関係人口という言葉がまだ一般的に認知されていなかった2020年。そのコンセプトを受け入れて投資をいただいた第一生命様の姿勢には、正に機関投資家としての覚悟を感じました。

コロナにより白紙になりかけたプロジェクトでしたが、皆様と最後までやり遂げたことで、協定施設には、当初想定していた以上に域外からの方々が訪れ、「関係人口が集う場」となりつつあります。

我々も、このプロジェクトを真に意味を持ったものとするため、リゾベーションの取組を一歩ずつ前に進めていかなければとの思いを新たにしています。

第一生命様には本プロジェクトに限らず、日頃から地域貢献活動で大変お世話になっております。これからも、地域課題の解決という難題をともに乗り越えていって下さるパートナーとしてご一緒できると大変心強いです。今後ともよろしくお願いいたします!

この記事をご覧になられている皆様。ビジネスの種を見つけに、一度ワーケーションでお越しになりませんか。

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