「違う形でも恩を返す」チャレンジフィールド北海道(兼日立製作所)山田真治氏の「自分流」
新年度となりました!記事を楽しみにお待ちいただけていたら嬉しいです。
今回は、チャレンジフィールド北海道(※)の総括エリアコーディネーター、山田真治さんにお話を伺いました。
山田さんは㈱日立製作所(日立北大ラボ長など)で活躍されながら、世の中、地域を良くしたいという思いで企業の枠を越え、CF北海道でも活動されています。
山田さんからのご紹介で、帯広市が日立製作所様とAI×脱炭素の実証事業を行ったり、京都大学の広井先生より帯広のまちづくりに関してご助言をいただくなど、大変お世話になっています。
日本政府のアドバイザリーボード(委員会)にも多数参加され、世界、日本、大企業、地域を知り尽くしている山田さんに、十勝・帯広のどこに注目され、どんな思いを持っているのか伺いました。
隙が生まれている北海道
——十勝・帯広に関わったきっかけから伺いたいと思います。
最初は1985年に大学院の時に旅行で訪れました。曜日感覚を忘れて現金をおろせなくなって、野宿することになった旅でした(笑)。それから月日は流れ、CF北海道の高江瑞一さん(日立製作所)、松尾華以奈さん(現インハウスハブ東京法律事務所)が2021年9月の十勝・帯広リゾベーションツアーに参加させていただきました。
その後、私も高江さんと一緒に帯広に伺って、徐々に帯広の皆さんと関係が深まって、現在も帯広のまちづくりに関する意見交換会に参加させていただいています。
CF北海道が目指すところは「地域が良くなること」です。大学のいろんな技術の事業化を目指す活動などをやっていますが、もっと直接地域と関わりたいなと。だから、地域そのものを良くする活動をしている、動きのある地域と関わろうと思いました。それが、帯広でした。
——まちの活性化には人の活動が欠かせないと思いますが、山田さんから見て、十勝・帯広はどう映っていますか。
人のQOLってわくわくして、「自分も何かできるか」を感じられて、自分のいるスペースがないとダメだと思っています。あらゆるものが成熟した日本では、どこにも隙がなくて「自分はできる」ということがない。
私が日立の基礎研究センタ長の時、ケニアやマレーシアに共同研究拠点を作りました。特にケニアは40代以上の人が非常に少なくて、20代くらいの人が、「この国を良くするのは自分たち」という意識がある。例えば、彼らのバイオに関する知識や能力とかは全然日本人の大学生の方が上なんですが、自信を持って発言したり行動してますよ。
北海道でも日本でもそうなってほしい。北海道はだんだん過疎化してきて、いろんなインフラが断絶してきています。逆に言えば、隙がどんどん生まれてきているので、ピンチはチャンスじゃないですけど、「自分はできる」と思ってひとりひとりが挑戦していってほしいなと。
地域課題、社会問題を解決することは、必ずしもノーベル賞級の技術じゃないと解けない、なんてことはないじゃないですか。だからロケットストーブがあったっていいし、藁の断熱材があったっていいし、もっと些細なものでもどんどんやっていく。そういう社会になる必要があると思いますね。
自分事で取り組むためには
——山田さんは物事を自分事に落とし込んで考えている印象を強く受けました。心がけていることは何でしょうか。
日立でマネージャーをやってきましたが、モチベーションに関して、僕は指示というのは本当に嫌いで。大事なのは「気づき」なんですよ。気づきは自覚があって長続きするし、「自分事」につながる。だけど、上からの指示で動くと、それはやらされていることになる。うまくいかなかったとき、内心では「ほらうまくいかなかったじゃないか」と他人事になる。
組織としての大きな方針だけ掲げて、howの部分は自分たちで考えてやったら、自分たちが納得できるじゃないですか。だからその後が全然違うんですよね、人生というかその後の試み自体が。
——おっしゃるとおりですね。ティール組織(※)とかいったりもしますけれども。地域全体、北海道がティール化するといいのかもしれないですね。
上から偉そうに指示して、というピラミッド構造が一番レベルの低いマネージメントです。全部自分でコントロールしようと思うと結局ティールだったり自律分散にならない。
マネージャーの力量がすごく問われるんですよ。個人に任せるのだけど、組織としてカオスにはならないように。それをなんとか自律分散で、ちょっとはみ出て失敗することを許す寛容さとカオスにならないバランスが求められますね。
これは企業だけでなく、地域全体にも言えるのだと思います。
一貫した考え方の根底にあるもの
——山田さんには話に一貫性というか、確固たる信念、一本筋が通っている印象を受けましたが、何か経験に基づくお考えなのでしょうか。
若い時は青年海外協力隊に入りたかったんですが、最後に思い切れず海外には行けませんでした。ですが、54歳、基礎研究センタ長になってから、先ほどのケニアやマレーシアのような形で実現しました。ずっと潜伏してこういう想いは持っていました。
若い頃は、自分なんかより圧倒的に優秀な人がいる環境の中で、優越感とコンプレックスに悩み、こんな自分が嫌で退路を断ってアメリカに飛び出しました。無計画に会社を辞めてプー太郎で行ったんですよ。
向こうでは裸一貫でやらないといけないから、日本だったら話すらしてくれない人たちと頼り頼られの関係なんですよね。海外に行ったら、「なんだみんな一緒じゃないか」と。学んだのはそれだけですよ。すごい理論を学んだわけでもなんでもない。頭じゃなくて体でわかったということです。
こういう経験をしてるから日立に入っても型にはまらずに、マネージメント、付き合い方、会話の仕方など、自分流が出来上がってきたんでしょうね。まあ勝手なことばかりやってるから、いろんな人のお世話に、正確には迷惑をかけてきました。
だからどこかで恩を返す、と思っていて。だけど受けた恩を、育った愛媛やお世話になった先生にはもう返せない。なので違う形でもいい、北海道で返そう、違う人に返そうと。
誰のために働いているのか。それは社会のためであって、その手段として日立に貢献するのだと。社会貢献と会社貢献を勘違いしないこと、順番を勘違いしてはいけないということを若い社員に伝えています。
十勝・帯広をどうみているか
——帯広での中心市街地活性化に関する意見交換会の受け止めや、十勝地域というのをどのようにみていらっしゃいますか。
いろんな新しいことが動きつつあるなと思っています。もちろん一挙にいくはずがない。大樹町だって十勝の一員としてずっとがんばって、ロケットのまちという形が見えつつありますよね。帯広の中心市街地活性化は見て変化がわかり易いので、早く兆しが見えてくるといいよなあと、自分としても何ができるかを考えながら関わらせていただいてます。
ひとつずつ動いていけば、周りから見てて、帯広はどんどん変わってきたなとわかってくるんじゃないかなと。まちも人もトータルで元気が出ると思っています。何事もひとつずつですよ。
あと、一番難しいかもしれないですが、十勝地域は大規模農業が圧倒的に強くて順調に見えるので、試験場で次に向けた試みをほんの5%くらいやってみるなど、次に向けた準備が必要だと思います。そういう動きが出るともっと頼もしく思いますね。CF北海道でも、北海道の農協さんと少しずつ関係性を築いているところです。
日立AIチームについて
——日立京大ラボで広井先生とご一緒されて政策提言AIを作られたということですが、経緯を伺えますか。
2016年に、私が日立京大ラボを作ったんですよ。京大の特色は、物事の真実を突き詰めることに執念を燃やす点です。日立の技術者もその点に拘る部分があるので、親和性が高いかなと。そんな経緯で日立京大ラボを設立し、公共政策の広井良典先生(京大教授)と知り合いました。広井先生はどういった社会が望ましいのかを研究されていて、そこに日立AI研究者を加えさせていただいて、2万通りのシナリオを解析できる政策提言AIシミュレーターを一緒に製作しました。
テーマとしたのは、中央集権型社会の継続か、自律分散型社会へ移行するかでした。このAIの技術のすごいところは「時間軸」があることです。人間が想像できるパラレルワールドは3つか4つと言われています。一方、AIシミュレーターは今では2万通り。さらに、時系列でどんなイベントが出てくるかを人間には想像できない。人間は平面的な描写しかできないんです。
このAIシミュレーターを別の文脈で活用することを模索していたところ、せっかく私がCF北海道で活動しているので、北海道で試してみないかと。AIシミュレーターを環境、脱炭素にチューニングして、どういうシナリオが浮かび上がるかを探ってみましょうと。そこで今回、石狩市さんと帯広市さんで「脱炭素シナリオシミュレーター」の実証事業をさせていただくことになりました。
帯広市さんには、日立製作所のデザイナーを中心としたAIシミュレーターチームで、課題を探るのが得意な彼らを紹介させていただきました。とても面白い人たちですよ(※AIシミュレーターチームへのインタビュー記事は、別にこのnoteでお伝えします!)。
将来世代へできること
——脱炭素×AI実証事業のグループワークに、帯広畜産大学の学生さんが参加していました。彼らのような将来世代は割を食う世代にも思います。その世代のためにいま北海道、日本が何をすべきだとお考えですか。
少なくとも機会を与えてあげることです。機会は奪わないでほしい。大人の考え方からして無謀だとしても、どれだけのリスクがあるかそっと評価してあげればいいんです。若者から「大人に入ってくれ」なんて声があったら万々歳ですよ。
高校生の提案を全部反映する必要はない。だけど、「なるほど」と思ったときは市の政策に反映する、受け止める対応をしたらいいと思います。自治体の全予算を若者に預けるわけじゃないですし、50万円や100万円でも十分だと思います。自発的な活動の機会を生かしてあげれば、正の循環でどんどんいいようになっていく。
私も、若い世代に希望あふれる地域社会をつくるために、自分事として帯広のまちづくりにも関わっていきたいですね。
インタビューを終えて
幅広い視野、人脈と、何よりとても熱い想いをお持ちの山田さん。山田さんから、京大の広井先生をご紹介いただき、帯広市中心市街地活性化に関する意見交換会でご講演をいただきました。
今回はインタビュー形式でしたが、私たちが学ばせていただいている時間に感じました。
「自分事」の大切さ。日々感じています。イノベーションや新規事業は、誰かに指示されて生まれるものではないと思います。私たちも「自分事」として帯広でなにかをしようとする方々が活躍できるように、精一杯汗を流そうと想いを新たにしました。
山田さんがおっしゃったように、私たちもこの取組みでお世話になっている方々に違う形でも受けた恩を返していけたらと思います。
山田さん、ありがとうございました!今後ともよろしくお願いいたします!
次回は山田さんにご紹介いただいた、帯広市で脱炭素シナリオシミュレーター実証事業を行った日立製作所のチームの皆さんの想いを伺ってみようと思います。お楽しみに!
最後まで読んでいただきありがとうございました!ぜひフォローとスキもよろしくお願いします。