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「日立の使命」AIシミュレーター×帯広市×脱炭素社会の未来シナリオ

今回は㈱日立製作所のAIチーム、デザイナーの池ヶ谷さん、味八木みやきさんと研究者の森本さんに、帯広市で行われた「脱炭素シナリオシミュレーター」実証事業のお話を伺いました。

前回の記事でチャレンジフィールド北海道の山田真治さん(兼日立製作所)からご紹介いただき、本実証事業が行われています。

『地域特性を踏まえた2050年の脱炭素へのシナリオ』をどのように描くのか。難題を一緒に取り組んだお三方の想いを語っていただきました。

左:池ヶ谷 和宏(いけがや かずひろ)
環境、サステナビリティの分野におけるデザインや顧客協創に従事。趣味は筋トレと氷河巡り。

中央:森本 由起子(もりもと ゆきこ)
システム開発研究に従事。2015年より物流、電力、ヘルスケア向け等の価値シミュレーターの開発と展開を担当。趣味はマラソンとドライブ。

右:味八木 真理子(みやき まりこ)
交通・医療・産業分野などのUI・UX、AI等を活用したDXのヒューマンインタラクション研究に従事。趣味はヨガと旅行、帯広旅行も計画中。

組織改編が生んだ異色のチーム

——皆さん違う分野で活動されてきたと思いますが、一緒のチームになった時のエピソードなどあればお願いします。

森本氏:
これまで研究所の組織体制は完全な縦割りで、研究者とデザイナーはあまり交わってきませんでした。

池ヶ谷氏:
日立製作所は良くも悪くも大企業で、社会インフラを提供する会社です。20年、30年後にどんな価値観を持った人がいてどんな生活をしているかを考え、社会インフラを提供することが『日立の使命』だと思っています。

森本氏:
日立は長期的な視点から、研究者とデザイナーが組むことで新しい融合が生まれるのではないかという考えのもと、2015年に大規模な組織改編を行いました。これは痛みを伴うくらいの出来事で、私自身も『同じ会社で、同じ日本語のはずなのに言葉が通じない』と衝撃でした。

味八木氏:
異分野だからこそお互いの興味や専門分野を共有できる環境が良い刺激になっています。刺激を受けることで自分の世界観が拡張される感じがして面白いです。

森本氏:
我々は研究所として、『社会課題解決につながる事業を生み出す』というミッションを抱えています。そんな中、味八木も言っていたように融合チームにはすごい刺激があるんですよね。全然違う視点でコメントをもらうのは、いい意味での刺激と理解が深まって逆に楽しいです。今もし研究者ばかりの部署に戻ったらつまらないなと思うかもしれません。

東京都国分寺市にある協創の森(中央研究所)

社会に対してどう問いを立てるか

池ヶ谷氏:
研究者とデザイナーが混ざり合うことで、研究所の弱い部分にも気づきました。研究所には具体的な問いにはすごい速さで、しかも最適解を導き出せる人が多いですが、抽象的、本質的な問いにはフリーズしてしまう人も多いです。私はデザイナーとして、2050年にこの世はどうあってほしいか、良い問いを作ることがミッションだと思って、日々取り組んでいます。

味八木氏:
研究所の中で、難しい社会に対してどう問いを立てるかは大きなテーマになっていますね。

池ヶ谷氏:
これからはChat-GPTの普及にもわかる通り人間がやらなくても良い、解かなくても良い領域が増えていくので、その時にどういう問いを立てられるか、そこが人間の最後の砦として大事だと思っています。

脱炭素シナリオシミュレーター制作秘話

——脱炭素シナリオシミュレーター制作の経緯や、特徴についてお聞かせください。

池ヶ谷氏:
2021年に日立製作所はCOP26(※)のスポンサーになりました。そこで日立の技術をどう発信するかを考えたときに、元々あった政策提言AIが脱炭素に使えるのではと思い、研究中の脱炭素シナリオシミュレーターのイメージ映像を展示しました。すると、海外の方からすごく良い反響をもらって。

(※)国連が主導する気候変動対策の国際会議

脱炭素への実現において、経済価値、社会価値、環境価値のバランスを取るのはすごく難しいと思います。日本の自治体の方も、世界中の方々も似たような悩みを抱えていました。2050年の脱炭素を宣言したはいいものの、具体的な施策が立っていない自治体さんも結構いらっしゃるので、ロードマップの策定にシミュレーターが使えたら面白いんじゃないかなと。

「可視化」することで行動に変化が

森本氏:
従来だと、表計算ソフトに何十シートも同じような数字が出てきて、いろんな機能を駆使して一所懸命読み解いていました。それを、専門家でなくても使えるものを目指しました。自治体の職員の方が実際に使って、まちの未来がどうなるかを議論できるようになったらいいなと。

——数字の羅列を読み解くところから可視化につながっているんですね。

森本氏:
シミュレーターをみんなが見れるようになったら、2050年の環境を想像できない人の考え方も変わるかもしれない。次の世代が生きづらい環境の将来を見て、自分の日々の行動が変わったり、行動を考えられるようなツールになったらいいなと考えて研究しています。

池ヶ谷氏:
これをどこかで実証してみたいと検討していたところ、北海道庁さんから連絡をいただき、チャレンジフィールド北海道の山田さん(兼日立製作所)から帯広市さんをご紹介いただきました。

帯広市実証事業  最終発表会の様子
(将来ビジョンはあくまで仮想です)

実証事業でのワークショップを通して

みんなでつくるプロセス自体が面白い

——ワークショップを組み立てる上で意識されたことはありましたか。

池ヶ谷氏:
今回、普段は一緒に議論されていないような方たちも部署横断でワークショップに参加していただきました。ツール自体も大事なんですが、環境を目標としながらもバランスを見ながら考えていくというプロセス自体がすごく大事なのかなと思っています。

森本氏:
外部にビジョンや施策の提案を依頼するという方法もあるとは思います。だけど実際のロードマップは、自治体の方が具体的な施策にして予算を確保しなきゃいけない。なのに愛着がない施策に対して最後までやりきることは簡単ではないと思います。長期的に自分たちが受け入れられる施策になっていた方が、自治体の方にとっては嬉しいんじゃないかなって。

味八木氏:
参加した方がいきなり遠い未来のことを考えるのは難しいと思います。AIを活用することで、起こりうる未来シナリオを大量に列挙してくれるので、ものさしを増やすことができます。そして、共通認識をもって、その未来シナリオを眺め、それぞれの立場の方を尊重しながら、納得できる議論ができたらいいなと。今回のシミュレーターはそういったコンセプトで設計したので、今後もレビューを行って改善していきたいなと思っています。

納得できるシナリオにするために

――最初から意見をぶつけるとゴールまで難しくなる気がします。プロセスで重要なポイントは何でしょうか。

味八木氏:
最初に人の想いを持った指標とその関係性を作る過程がポイントだと思っています。AIはあくまでツールですので、当事者の主体的な取り組みへの支援が、私たちが大切にしている点です。

池ヶ谷氏:
実証事業では帯広市の特徴的な要素も沢山出していただいて、インプットの指標データをみんなで作りました。指標だけではなく、指標の関係性もみんなで式にしました。指標の関係性は例えば、人が増えれば税収は増えるけど、人が増えることで自動車が増えるので結果的に脱炭素にはマイナス、などですね。

それをAIに入れました。そうすると、2050年脱炭素社会に向けて2050年までにどうしたら脱炭素できるかという未来シナリオが出てくるんですよね。インプットからAI、というわけではなくて、みんなで決めた、というところもポイントですね。

実証事業で議論をする帯広市職員と、日立味八木さん

森本氏:
入口は人間が考えて、最後のゴールまでは一旦、AIが誰にも忖度なく候補を出し、その候補を人間が議論がするってところがこのシミュレーターのポイントです。住民のひとりひとりがもっと気軽に参加して、議論が活発化すると良いんじゃないかなと思います。

池ヶ谷氏:
ワークショップを通して印象的だったのが、参加した皆さんが十勝というエリア全体のことを考えていたことでした。全国でもこういう地域は数少ないと思います。

十勝・帯広へメッセージ

——ワークショップには自治体職員に加えて、住民の方々にも参加いただきました。十勝地域・帯広市へのメッセージがあればお願いします。

池ヶ谷氏:
今回、初めて市から検索して、帯広市さんへふるさと納税をさせていただきました。『返礼品がお得』とか『美味しそう』ではなく、地域との関係から自然に出た行動に何だか嬉しくなりました。行ってすごくいいところだなって思ったし、私自身寒いところは結構平気なので、住んでみたいなと本気で思いました。

森本氏:
これをきっかけに関係人口のひとりになりたいし、バーチャル市民とかにもなっていけると面白いなとも思いますね。私も帯広市さんにふるさと納税させていただいて、いただいたお肉を堪能させていただいています(笑)。

味八木氏:
現地で地域の魅力をすごく感じました。それで家の近くにある図書館で見つけた本で帯広市さんの名所とかが載っていて。今度は個人的に帯広に行って、いろいろ巡りたいなと計画しています。

インタビューを終えて

使命感を持って、チャレンジを続けるお三方。正直、日立の研究所の方はもっとお堅いイメージがありましたが、良い意味でカジュアルな方々でした。ただ、そんな中にも、物事の本質を突き詰めようとする姿勢を常に持たれていて、日本を背負う使命感のようなものを感じました。

リゾベーションの取り組みを通じて、日立製作所の多くの方々と知り合うことができました。勝手ながら、日立製作所様を関係人口ならぬ『関係企業』だと思っています。日立の皆様、引き続き、宜しくお願い致します!

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