「観終わった後、ガストロノミーがわかります」WOWOWプラス原田俊英氏&映画監督杉山嘉一氏の想い(前編)
㈱WOWOWプラスは地方創生支援として、帯広市開拓140周年・市制施行90周年を記念した長編作品『帯広ガストロノミー』を制作し、BS放送「WOWOWプラス」にて2023年3月30日(木)19:00から放送することを決定しました。
<㈱WOWOWプラス プレスリリースより>
※2023年6月7日現在、「Amazon prime video」にて配信中!
企画・原案・プロデュース・制作総指揮をされた原田俊英さんと、映画監督・脚本家の杉山嘉一さんに、『帯広ガストロノミー』や地方創生への想い、十勝・帯広の可能性を語っていただきました。
『帯広ガストロノミー』は、お二人が十勝・帯広リゾベーションツアーに参加されたことがきっかけです。ツアーから事業化が実現した注目事例です。
地方創生事業に至った経緯
——お二人は、2021年7月の十勝・帯広リゾベーションツアーに参加されました。ツアー参加のきっかけを教えてください。
原田氏:
社内で地方創生支援事業を立ち上げたことが背景としてあります。コロナ禍で在宅時間が長くなって生まれた「巣ごもり需要」によって、配信プラットホームが急激に台頭し、彼らの存在を僕ら放送業界も脅威に感じていました。
長らく放送に携わってきた者として「放送の存在意義とは?」とふと思いました。その中で、「メディアとしてのパワー、長年培ってきたノウハウ、それを必要とされる方々にいかに広く使ってもらえるのか?」を軸に考え、活用いただける存在として「地方」というのが、僕の中でイメージとして出来上がったんですよ。
衛星放送は首都圏の方々向けに仕事をしているわけではありませんし、支局が地方に点在しているわけでもありません。首都圏の情報だけが全てではない。むしろ地方にこそ眠った価値ある情報があって、首都圏にあるメディアはそれを吸い上げていく。それが我々衛星メディアの存在意義じゃないかな?と思い始めて、地方創生事業をやろうと思いました。ただ初めから帯広ありきということではなかったです。120くらいの自治体にとにかく電話しまくりました。
——すごい……
原田氏:
どのように地方と接点を持つかを考えた時に、熱意を持った自治体の方々とやりたいと思いました。熱意を図る軸として自治体のYoutube動画だと思いました。作品を自分達で作ってアップロードするというのは、そこに少なからず確かな熱意とか、アウトプットする姿勢、体制、人材がいるだろうと思って、絞ったら120くらいになりました。その中で、帯広は色々な方々との繋がりができたし、一緒にやりたいと理解を示していただいたので、僕の中で地方創生支援事業第一弾に「帯広」が浮上してきました。
十勝・帯広リゾベーションツアーの話をもらって、ロケハン(撮影場所の下見)、シナハン(台本を書くための取材)も兼ねて行こうじゃないかと。開拓魂じゃないですけど、新機軸を築くコンテンツに関して杉山さんを凄く信頼していて、杉山さんもどうですか?とお誘いして、2人で十勝・帯広リゾベーションツアーに参加したのがきっかけです。
——原田さんの考えの根底に、地方での事業があったんですね。
原田氏:
そうですね。地方創生というだけではなく、需要もあるとも思ったんです。つまり、コンテンツを作る意義の面と、観てもらえる/流通する土壌があるという面で、地方がいいなと思いました。放送を放送として存在させる意味ですごく重要なポイントが地方にはあると思います。
帯広ガストロノミー制作に至った経緯
——原田さんにツアーに誘われて十勝・帯広に来た時、杉山さんはどんな印象を受けましたか。
杉山氏:
原田さんが熱意のある自治体を探していた中で帯広が面白そうな取組と、それに関するツアーをやっていると聞きました。『北の国から'98 時代』で助監督をやっていたので富良野は知っていましたが、帯広のことはほぼ知りませんでした。監督・脚本家として、良い部分だけじゃなく、そうではない部分も知った上で「ここは素晴らしいですよ」と見せたいと考え、その両面を知ることが出来ればと参加させていただきました。
ツアーでの第一印象は、まず飛行機で1時間強、空港から市内にも30分強で着くという利便の良さにびっくりしました。空港からは「ザ・北海道」というような雄大な自然の中を走るまっすぐな道がありましたが、市の中心部についたらあれ、普通に街だと失礼ながら思いました(笑)。もっと田舎なのかなと思っていたので、想像とは違っていましたね。ただ、その街の中心には昼間にあまり人がいない。なんか不思議な場所だなぁという印象でした。その後のツアーでは、住まう人々のリアルを知りたくて、色んな場所を見て、色んな人の話を聞かせてもらいました。
原田氏:
地方創生支援第一弾と名がつくように、この件は弊社、私としても新しい挑戦、事業開拓なんです。「帯広にしよう」と思った決め手は、色んな方から帯広の開拓時の出来事、背景、エピソードを聞いたことが一番大きいですね。これから新しい物語を作っていく上で色んな要素が生まれてきそうだなという期待感があって、帯広にしようと思いました。
——具体的に脚本が決まっていない中で、帯広でやろうを決めたということでしょうか。
原田氏:
はい。どちらかというと精神論的な部分が大きかったです。裏付けがあったわけではありません。僕が一番シンパシーを感じたのは、「ないものはつくればいいじゃん」と何人もの帯広の人に言われたことです。この言葉が僕はすごく好きで。この辺が帯広にした一番の理由ですね。
杉山氏:
僕も同じです。映像としては十勝・帯広が絵になることは分かっていましたが、初めは当然物語はゼロなわけです。原田さんも言っていた「ないものはつくれば良い」という帯広を切り開いた民間開拓団「晩成社」をはじめとする開拓魂の事を聞いたとき、これは面白い。これが物語の核になるのかなと思いました。
フロンティアスピリッツ、現状からの新たな開拓、止まらずに前進する姿は現代日本の色々と大変な状況に対して、「ここでもう一発、鍬を打ち込んでみないかい?」と見せられるような気がしました。帯広から東京への帰路で、そんな話を原田さんとしたことを覚えています。
——配役にあたって意識したことはありましたか。
杉山氏:
キャスティングは、できるだけ帯広、北海道に関連する人にしたいなと思いました。物語の主人公である「縁あって帯広に来なければいけない人」と「東京から帯広に逃げた人」はストレンジャー(よそ者)です。この役は東京の人でいい。それ以外の人はなるべく地元関係者にしたかったんです。言葉であったり、その土地の空気感が出るんじゃないかなと。
『帯広ガストロノミー』への想い
——帯広ガストロノミーへの想いをお聞かせください。
杉山氏:
原田さんの中に、循環のイメージがあったんですよね。消費には必ず生産している人がいるのに、忘れがちになっていると。消費で終わらず、消費した人がまた新たな何かを生産していく循環が大事なのだろうという想いが。
それを受けて僕は循環というサイクル、循環の環(わ)、これを人間ドラマのテーマにすればいいんじゃないかと考えました。生きていれば、失われる絆もあるし、失くしたものも沢山ある。それにただ落胆するのではなく、例えばプライドを失ったなら新たなプライドを作りだす。そうやって誰かが動いたことで他の誰かが立ち直り、立ち直ることでまた別の誰かが立ち直るという、人が人をつないでいく想いを表現したいなと。そういうことを考えて形が出来ていきました。
——作品に込めたメッセージは何でしょうか。
原田氏:
『帯広ガストロノミー』というタイトルに立ち返ると、ガストロノミーって何?って話じゃないですか。タイトルを見てガストロノミーの意味を正確に答えられる人はそう多くないと思います。なのにわざわざこういうタイトルをつけたのには、「ガストロノミーはこれを観ればわかるよ」という中身にしたくてこういうタイトルにしたということがあるんですよ。
定義としては美食学的なことですが、美食に含まれる意味合いとして、杉山さんからあったように、人々や産業が循環し、その循環が美しい食を生んでいくということを作品で描きました。これを観て、循環によって、心を含めた美、食、色んなものが生まれて、そこから新しい循環が生まれるという想いがこの作品を通じて広く伝わってほしいなと思っています。より具体的なことは杉山さんに聞いてみましょうか。
杉山氏:
地方創生は、『こんないいところがある、こんなおいしいものがあることを知ってもらう』のでは足りないと考えていました。そもそも何の問題もない地域なんて存在しないと思うんです。ですが地域が抱えている問題・欠点をほっといている街に魅力はないし、魅力的な街には課題・欠点をなんとかしようと汗をかいている人々が存在します。実際にそういった人たちの話を聞いて、作品にも取り入れています。
地方創生がテーマであり十勝・帯広の魅力は十分に見せたいけど、ただの観光ビデオにはしたくありません。作品をご覧になった方が新たな考え方、明日への希望なりを見出していただければと考え、喪失と再生という循環をメインテーマに置き、絆を失った親子や全てを奪われ逃げ出してきた女性が十勝・帯広で様々な人々に出会い、何らかの変化が起こる姿を描きました。
十勝・帯広を舞台とした作品ですが、日本中の様々な場所で色々な立場で悩みながら頑張っている人に、あなた一人じゃないよと、あなたは誰かのためになっているよと感じていただけたらいいなと思っています。
十勝・帯広へのメッセージ
——東京でメディアの第一線で活躍されているお二人から、地域あるいは住民へのメッセージをお聞きしたいです。
杉山氏:
実際に住んでる人ってその地域の良さが当たり前すぎて忘れちゃったり、ウチなんかダメだよなんて自虐的に言ったりする人が意外と多いような気がするんですよね。もしそう思われている方は、『帯広ガストロノミー』を観て、やっぱり十勝・帯広って素敵だなと再認識していただきたいなと思います。
地方創生って外の人が価値を見出して、外の人で盛り上がることがあるじゃないですか。ただ、それを地域で受け入れる方々に熱がないと、一過性にしかならないと思っています。地域の方々には『帯広ガストロノミー』を観ていただいて、「日本・世界の皆さんどうですか」と胸を張って声を上げていっていただきたいですね。
観たら十勝・帯広に来たくなると思いますので、地域全力で受け入れます!みたいなマインドがあると嬉しいですね。実際、十勝・帯広ってポテンシャルが相当に凄い地域ですからね。食糧自給率1300%越えの地域が自分の住む街に自信がないって言ってる場合じゃない(笑)。あとは自信と熱量を持つだけじゃないかなと思います。
原田氏:
帯広に限らずなんですけど、それぞれの街にはそれぞれのポテンシャルがあると思っています。もし選んでそこにいるんだとしたら、たぶんそこが好きなんだと思うんですよね。選んでなくとも知らず知らずのうちに街が自分になじみますし。ただ、そこにプラスαで誇れる街まで行ったらなお良いし、誇れるものが多くある街に住むのって素敵なことだと思います。
そういう意味では、十勝・帯広はすごいですよ。食糧自給率もそうだし、自然も景色も、人も産業も。この作品を見ることによって十勝・帯広の方も自分達の街の再認識をしてほしいし、自分達のDNAの再認識にも繋げてほしい。ああそうだそうだ、自分達ってこういうDNA持っているよねって。ここから新しいものを生み出す機会になっていってくれると嬉しいです。
別の観点だと、十勝・帯広が僕らみたいな大消費地に住む者にとって、近いものに感じられる存在としてのイノベーターになるとすごくいいんじゃないかとも思います。
外の人が帯広に何度も来る明確な理由があると良いですね。豊かな土壌がある帯広で育てた作物を毎年収穫に来る人がいるとかね。或いは、その農産物を育てるためのバイオマスエネルギーを自分で管理する人が出てくるとか。十勝・帯広に行くという理由、土壌を作るというか、ブランディングをしていってほしいなと思います。作品を創った身としては、これをきっかけにこの部分も地域で育ててほしいです。
——ありがとうございます!
インタビューが盛り上がり過ぎたので後編に続きます…!